2023.06.29
あなたが不運に見舞われるとき、そこには「マーフィの法則」が働いている?
あなたが不運に見舞われるとき、そこには「マーフィの法則」が働いている?
折りたたみ傘を持って出てこなかった日に雨が降る。
おいしいと評判のラーメン屋さんに並ぶと
自分の前で売り切れる。
遅刻ぎりぎりで焦っていると電車が遅れる。
家族旅行の前夜にこどもが熱を出す。
みなさんにもありませんか。
こういうときに「限って」こういうことが起こるという
自分のなかでの法則のようなものが。
日本のことわざだと「二度あることは三度ある」
あたりが該当しそうですが、
じつはアメリカでは一冊の本になっていました。
1993年発行ということなので、
もう30年前のことになりますが
『マーフィの法則─現代アメリカの知性』
(アーサー・ブロック著・倉骨彰訳/ASCII)
という本がそれです。
当時話題になったので、
覚えている方もいらっしゃるでしょう。
「失敗する可能性のあるものは失敗する」
というあまりにも厳しい法則から始まる内容は、
多くの人々の共感に訴えたようです。
「トーストが落ちると、
必ずバターを塗った面が下になって着地する」
という法則がよく引用されて有名ですが、
おっちょこちょいで手元のおぼつかない筆者は
つい先週も同様の経験をしました。
「バターを塗った面は
塗ってない裏面よりバターの分だけ重くなるので、
重心が傾き、バターを塗った面が床に着く」
という推論と計算をして証明した人もいるそうです。
たしかにそうでしょうね、としかいいようがありませんね。
元祖「マーフィの法則」とは
法則には共感できるし根拠もありそうだけれど、
そもそも「マーフィ」とは誰なのでしょう。
上述の本の著者ではなさそうです。
マーフィ氏は実在の人物でした。
1949年、アメリカ・カリフォルニア州のエドワーズ空軍基地で
ジェット戦闘機の急減速実験が行われていました。
これはなんと、ロケットを積んだそりに人間をくくりつけ、
急減速がどのような影響を与えるかを調べるという危険な実験でした。
そりにくくりつけられていたのはジョン・スタップ空軍少佐、
くくりつけるためのシートベルト設計したのが
空軍大尉のエドワード・マーフィ氏でした。
シートベルトには16個のセンサーがついており、
過酷な有人実験の結果を確実に
記録できるようになっていました。
実験の結果、
スタップ少佐は脳震盪を起こし体のあちこちを負傷。
ところがシートベルトのセンサーは
なにも記録していなかったのです。
マーフィ大尉がすぐに調べたところ、
16個のセンサーすべての設定が
まちがっていたことが判明しました。
マーフィ大佐は、
センサーを設定した技術者を指差していいました。
「もし二つの方法があって
そのうち一つがまちがっている場合、
この技術者は必ずまちがった方を選択するだろう」
後に、この言葉を気に入ったスタップ大佐が
記者会見場で「マーフィの法則」として引用し、
マスコミを通じて多くの人に広まったのでした。
自分が怪我までした大事な実験の記録が残らなかったというのに、
スタップ大佐はユーモアを忘れない人だったようです。
わたしたちはなぜ「マーフィの法則」を信じるのか
筆者はこどものころ
「右」と「左」が
とっさにわからなくなることがよくありました。
考えて選ぶと必ずまちがえてしまったものです。
シートベルトを設定した技術者に同情を禁じえません。
わたしたちはなぜ
「マーフィの法則」のような失敗のパターンを抱えてしまい、
それを信じるようになるのでしょうか。
一つめの理由は、
パンにバターを塗ったほうの面が重くなるといったように
科学的な根拠が認められる場合もあるということ。
科学現象は実験場だけではなく、
わたしたちの生活のそこかしこで起こっていますから。
二つめは、わたしたちの記憶の傾向です。
人は自分に有利なできごとよりも、
不利なできごとに注目しやすい傾向があります。
なにかがすんなりうまくいったときより、
よくないことが起きたときのほうが
強く印象に残って記憶に長く残りやすいのです。
折りたたみ傘を持っていた日に雨が降ったことや、
並んでおいしいラーメンを食べたことや、
遅刻しそうだったのに乗り換えがスムーズで悠々間に合ったことや、
家族全員元気に旅行に出発できたことだって何回もあったのに、
それらは記憶に残りにくく、
うまくいかなかったときのことばかりを
覚えているのではないでしょうか。
胸に手を当てて、よく思い返してみる必要がありそうですね。
そしてもう一つの理由。
わたしたちには
「関係ないできごとを関係があるかのように思い込む」
傾向もあります。
たとえば、渋滞に巻き込まれたとき、
自分がいつもいちばん遅い車線にいるように感じませんか。
これは自分が他の車を追い越していることよりも、
自分を追い越す車のほうに意識が向かうことによって起こる錯覚です。
隣の車線にいる人と話をすることがもしもできたら、
その人もあなたと同じように
「こっちの車線がいちばん遅い」
というのかも知れません。
それでも「マーフィの法則」は面白い
ここまで考えると「マーフィの法則」は
スタップ大佐が初めて口にした法則同様、
たんなるユーモアであることがわかるでしょう。
日常会話には「ぼやき」が多くの割合を占めています。
わたしたちはきょうも、
自分が年を取ったことをぼやき、
健康上の問題をぼやき、
家族のあれこれや社会のあれこれをぼやきます。
なかでも失敗談は一二を争う頻度でぼやかれます。
そこに登場するのが「マーフィの法則」や
誰かのオリジナルの法則です。
失敗したのは自分のせいではなくて、
それらの法則が働いたから。
そうやってユーモアに切り替えると、
会話は楽しくなるし、ダメージも軽減するでしょう。
いつかあなたが『シン・マーフィの法則』の著者に
なっているかも知れませんね。