2022.12.19
この鬼は滅ぼしてはならない—-鬼のつく名字の数々
この鬼は滅ぼしてはならない—-鬼のつく名字の数々
テレビアニメ『鬼滅の刃』刀鍛治の里編が
2023年4月に放送決定と発表され、
さらに初回1時間スペシャルと
鬼滅人気は衰えを見せません。
そもそも日本の昔話で鬼は人間を脅かすものであり、
倒されなければならない存在でした。
桃太郎のように鬼を倒せば
未来永劫ヒーローとなれるわけです。
浜田廣介の児童文学『泣いた赤鬼』も、
人々が鬼を恐れていたからこそ成り立つストーリーでした。
そんな我が国に「鬼」の文字がつく名字があり
「鬼」を名乗る人々がいるというのも興味深いことです。
『日本人のおなまえっ!』
(NHK「日本人のおなまえっ!」制作班編
森岡浩監修・集英社インターナショナル)
※現在はすでに放送終了しております。
によれば「鬼」のつく名字には以下のものがあるそうです。
鬼(おに)
鬼頭(きとう)
鬼塚(おにづか)
鬼束(おにづか)
青鬼(あおき)
鬼神(おにがみ)
鬼王(おにおう)
一鬼(いちき)
三鬼(みき)
四鬼(しき)
八鬼(やぎ)
九鬼(くき)
百鬼(なきり)
百目鬼(どうめき)
鬼門(おにかど)
鬼丸(おにまる)
五鬼助(ごきじょ)
五鬼継(ごきつぐ)
五鬼上(ごきじょう)
五鬼熊(ごきぐま)
五鬼童(ごきどう)
鬼釜(おにがま)
鬼寅(おにとら)
鬼子(おにこ)
鬼海(きかい)
鬼ヶ原(おにがはら)
鬼屋敷(きやしき)
鬼生田(おにうだ)
鬼武(おにたけ)
鬼目(おにめ)
鬼怒川(きぬがわ)
鬼気(おにき)
鬼熊(おにぐま)
鬼岩(おにいわ)
鬼子尾(きしお)
鬼切(おにきり)
頭鬼(ずき)
鳴鬼(なるき)
牛鬼(うしき)
なんと39もの「鬼」のつく名字があったとは。
『るろうに剣心』あたりで
「鬼名衆」なんていう名前の最強軍団が作れそうですね。
「泣いた赤鬼」はいないけれども、
赤鬼よりもっと心の優しい「青鬼」は
人間の世界で「あおき」さんになっていました。
百目鬼恭三郎さんという
文芸評論家がいらっしゃいましたが、
同書の監修者、森岡さんによれば
「百目鬼は地名由来の名字で、
水の流れが大きな音を立てていることを
『どうめく』『どうめき』というが、
それに漢字を当てたもの」
だそうです。
「五鬼」がつく一族の先祖は「鬼」?!
「鬼」がつく39の名字のなかでも目立つのは
「五鬼」がつくものが5つもあること。
「五鬼助」「五鬼継」「五鬼上」「五鬼熊」「五鬼童」で
「五鬼一族」を成しています。
「五鬼一族」の由来はなんと本物の鬼なのだとか。
奈良県下北山村前鬼(ぜんき)の
寺院宿坊・小仲坊の住職、五鬼助義之さんは
7世紀の山伏役行者(えんのぎょうじゃ)と
鬼の夫婦の逸話を語ります。
前鬼と後鬼(ごき)という鬼の夫婦は
人間のこどもをさらって食べるなどしていましたが、
役行者に自分たちのこどもを隠されて改心、
役行者の霊力で人間に変えてもらいました。
夫の前鬼の名前は地名となり、
妻の後鬼の名前が5人のこどもたちに
「五鬼継」「五鬼上」「五鬼熊」「五鬼童」「五鬼助」と
名字として受け継がれたのでした。
こどもたちはそれぞれ宿望を営み、
修行者たちを世話してきたが、
明治時代からの廃仏毀釈によって修験道が衰退し
「五鬼助」以外の四家は廃業し山を降りていきました。
五鬼助義之さんはいまも宿坊を守り、
修験者たちの世話を続けています。
角のない鬼もいる、熊野本宮大社の宮司「九鬼(上の部分が田の異体字)」さん
※以下九鬼さんの名字は
鬼(上の部分が田の異体字)として
かっこ書きを省略致します。
小仲坊に残る釣鐘に刻まれた
鬼の末裔の名前のなかには
「鬼」の上の点、
つまり「角」に当たる部分がないものもあるそうです。
角のない鬼、
優しい鬼という意味なのかも知れません。
同じ鬼を持つ
「九鬼」を受け継ぐのが
熊野本宮大社の宮司、
九鬼家隆さん。
鎌倉時代末期に九鬼さんのご先祖は、
代々上皇が熊野詣をするときに身の回りのお世話をしていて、
その役割を無事に果たしたことで
後醍醐天皇から「九鬼(上の部分が田の異体字)」の
名字を授かったのだそう。
ただし、その当時は「くき」ではなく、
「鬼」を「かみ」として
「くかみ」と読んでいたのだとか。
角を外した鬼は神であったということでしょうか。
古来、神と鬼とは一心同体、
表裏一体だったのかも知れません。
修験道や神道が土地に深く根づき、
天皇から庶民まで広く人々の心身を支えていた時代を感じます。
「鬼」より怖い「魔」がつく名字もあった
役行者によって改心したり、
天皇から角を外していただいたり、
「鬼」がつく名字には優しいエピソードがありましたね。
驚くことに、
場合によっては「鬼」より怖い「魔」のつく名字もあるのです。
岡山県南西部の矢掛町(やかげちょう)には
「降魔(ごうま)」さんがお住まいだとか。
その方の義理のおじいさんが高野山の僧侶で、
金剛峯寺の座主、
降魔研暢(けんちょう)の養子となって
名字を継いだのだそうです。
「降魔」の意味は
「外から襲ってくる悪魔を仏法の力で打ち倒すこと」。
「敵を降(くだ)す」といいますし、
負けることを「降参」といいますね。
「降魔」とは勇ましく強い力を表す名字だったわけです。
降魔研暢が降魔を名乗ったのには
じつはもう一つの意味がありました。
廃仏毀釈が進むなかで、
暴徒による寺院や仏像の破壊が横行。
政府は「平民苗字必称義務令」によって
出家して名字を持たない僧侶にまで
名字を名乗ることを義務づけたのです。
研暢はそれに反発して「降魔」を名乗り、
仏教を守り抜く姿勢を示したのだといいます。
「鬼」も「魔」も、
名字として名乗る者には「強さ」を授けているようです。
知り合いの「鬼」がつく名字を持つ方を見る目も
少し変わるかも知れません。