2023.12.18
名字でめぐる日本列島 関西地方から沖縄地方まで
名字でめぐる日本列島 関西地方から沖縄地方まで
姓名研究の第一人者、
森岡浩さんの著書
『名字でわかるあなたのルーツ』からの抜粋で
日本の各地方の名字の特徴についてお送りしています。
今回は関西地方から沖縄地方までを
ご紹介して締めくくりましょう。
関西地方の名字
東日本の名字が「佐藤・鈴木」で代表されるのに対し、
西日本の名字は「田中・山本」で代表されます。
この二つがとくに集中しているのが関西地方で、
すべての府県で1位2位を占めています。
次いで多いのが
「中村」「井上」「吉田」「松本」で、
その府県でもこの6つが上位に並んでいます。
関西では地形由来の名字が多いのが特徴であるそうです。
関西は古代から日本の中心地であり、
人口密度も高かったことから
名字の種類が多く、
分散もまた激しくなっています。
各府県では、
いちばん多い名字でも全体の1%くらいしかありません。
人口密度が高いと、
地名を名字にすると同姓が増えてしまうことから、
地形など地名以外をルーツとする
名字の割合が上がっていきます。
関西は、その歴史の古さによって、
名字のルーツが多く残っています。
とくに奈良県には、
藤原・菅原・安倍・髙橋など、
古代豪族につながる名字が多数あります。
その他にも、
渡辺や佐々木など、
関西をルーツとする
歴史の古い地名由来の名字も多いそうです。
中国地方の名字
中国地方も関西地方の影響が大きく
「田中」と「山本」が圧倒的です。
それ以外の名字で各県の2位までに入っているのは、
岡山県の第2位「三宅」だけ。
古代に吉備国として栄えた岡山県には
独特の名字が多くなっています。
三宅は、古代の収穫物を貯蔵する倉庫を意味する
「屯倉(みやけ)」にちなむもので、
朝廷の直轄領のことも指しました。
出雲大社のある出雲地方も古くから栄えていたために、
独特の名字が多くあります。
「神門(ごうど)」など「神」のつく名字や、
製鉄が盛んだったことにちなむ
「金築(かねつき)」などの
「金」のつく名字が見られます。
全体としては「山根」「藤井」「藤原」が
多いのが特徴になっています。
また、山陽地方では人名にちなむ
名田(みょうでん)に由来する名字も多く、
「信長」「頼経」といった名前のような
名字も多数見受けられます。
四国地方の名字
四国地方でも「田中」「山本」が多いのですが、
独特の名字も数多くあります。
香川県では全国で唯一「大西」が
最多となっているのが特徴的。
大西は阿波国三好郡大西(徳島県三好市池田町)を
ルーツとするもので、
出自は小笠原氏とも近藤氏ともいわれています。
鎌倉時代に西園寺(さいおんじ)家から
派遣された荘官の末裔といい、
四国中央部一帯に広がりました。
愛媛県では2位に「村上」、
4位には「越智(おち)」が入っています。
村上は信濃の村上氏の一族と伝えられ、
室町時代から戦国時代にかけては
水軍として瀬戸内海を支配しました。
越智は伊予の古代豪族・越智氏の末裔だそうです。
そもそも四国としての統一性は少なく、
4県の分布はかなりばらばらです。
中央に四国山脈があり、
徳島と香川の間にも阿讃山脈が連なっています。
かつてはそうした山脈を越えるのは大変で、
阿波・讃岐・伊予・土佐の四国の間での人の行き来は
それほど活発ではなかったのでしょう。
九州地方の名字
九州でも「田中」は多いのですが
「山本」は少なくなります。
代わりに「中村」「山口」などが多いのが特徴で、
この地では九州北部で「松尾」や「古賀」、
南部では「山下」が多くなっています。
しかし、県によって名字がかなり違っていて
「黒木」が最多の宮城県では、
その他にも「甲斐」や「長友」がベストテンに入っているほか、
大分県では最多が「佐藤」で、
以下も「後藤」などが多い
東日本に近い名字分布になっています。
大分県では源平合戦で源氏方についていた緒方一族が、
義経の逃避行を助けたことから頼朝に所領を奪われ、
そこに関東からおおくの坂東武士が移ってきました。
その結果、大分県は九州にありながら
関東地方のような名字構成になったのだそうです。
鹿児島県と宮崎県南部は大分県とは対照的に
鎌倉時代から幕末までの600年間以上にわたって
島津氏が支配してきました。
その間、他氏の支配は受けず、
薩摩藩は独自の制作を貫いていたので、
名字も独特のものが多くなっています。
この地域の名字には大きく分けて
三つの特徴があります。
一つめは「〜もと」という名字を
「〜元」と書くこと、
二つめは名字の中央に
「之」という漢字を入れることが多い点、
三つめには
4文字の名字が多いことです。
それぞれの例は「山元・福元・松元・坂元」、
「田之上・山之内・堀之内・竹之下」、
「上加世田・下小野田・東麻生原・野間川内」
などとなっています。
沖縄地方の名字
沖縄地方の名字は最多が
「比嘉」で2位が「金城」。
以下も独特で、
西日本型の名字とも
九州地方の名字ともいうことができません。
沖縄はそもそも琉球王国として
日本とは別の国でした。
明治維新後、
政府は琉球を直接統治下に置きましたが、
地理的に遠かったために、
人の交流はあまり進まなかったのです。
第二次世界大戦後は米軍による統治が始まり
自由に往来できるようになったのは
昭和47(1972)年の沖縄返還後のことでした。
沖縄の名字は現在も独特の読み方を残していて
「東江(あがりえ)」、
「中村渠(なかんだかり)」など
沖縄以外の人には
ふりがながなければ読めない名字も多くあります。
「新垣・島袋・玉城・知念・宮里・仲宗根・又吉・具志堅」など、
芸能界やスポーツの世界でなじみのある名字も目立ち、
沖縄出身の人たちが
この二つの世界で活躍していることを物語っています。
以上、北海道から沖縄まで、
日本列島を名字で旅してみました。
実際に旅するときも、
タクシーの運転手さんの名字や飲食店のスタッフの名札など、
注目すると面白い発見があるかも知れませんね。