2021.06.04
変体仮名(へんたいかな)ってご存知ですか?戸籍の記載から書道まで
蕎麦屋さんの暖簾や看板、割り箸の袋、和菓子の包み紙などに、ちょっと読み方のわからない文字が書いてあるのを見たことがありますよね?あの文字を「変体かな」といいます。
読めないけれど読んでいる変体かな
家系図を作成するために戸籍を遡っていくと、読めない漢字の名前が出てきます。
とくに女性の名前では、漢字ではなく、といってカタカナでもひらがなでもない暗号のような文字に出会って悩むことも。
この現代のわたしたちにはなかなか読みづらい文字は『変体かな』といいます。
じつはわたしたち、街なかでも『変体かな』としばしば出会っています。
たとえばお蕎麦屋さんの暖簾、割烹料理店の看板、割り箸の袋、和菓子の包み紙など、いわれてみれば「ああ、あれか」と思われることでしょう。
『変体かな』は読めなくても、お蕎麦屋さんや料理店であることはわかるから入れるし、割り箸は使えるし、和菓子も食べられる、というあたり、日本人としての遺伝子のなせる技なのかも知れません。
では「かな」と「変体かな」の違いはどこにあるのでしょう。
明治33(1900)年に小学校令施行規則が改正されました。
それ以降の学校教育では教えられていない「かな」を「変体かな」と呼んでいます。
「変体かな」に対し、現在使われているかなを「正体かな」「現用かな」「本則かな」などといいます。
変体かなの歴史
明治33年以前には「変体かな」と「正体かな」の区別はなかったと考えられます。
ではそもそも、日本固有の文字である「かな」はいつ生まれ、どのように変遷してきたのでしょうか。
かなが使われた書物でもっとも古いものは『万葉集』とされています。
『万葉集』は奈良時代末期に成立した日本最古の歌集です。
和歌を綴るために、本来意味を示す漢字を、その意味に関係なく音を表す文字として使ったもので『万葉集』でその使用法が頂点を極めたことから「万葉仮名」と呼ばれるようになりました。
その後、万葉仮名を崩した草書体から「平仮名」が、万葉かなの一部が音を表す訓点や記号に変化して「片仮名」が誕生し、それぞれが定着していったといわれています。
平安時代には「平仮名」「片仮名」ともに成熟を遂げました。
片仮名は統一に向かい、平仮名は反対に複雑化してさまざまな異体字を持ちながら、平安時代が終わるころには文字体系を完成していったのです。
平仮名は音を表すだけではなく、美的な効果を生むものとして、文学の世界で広く使われました。
『土佐日記』『源氏物語』『枕草子』などの仮名文学はその最たるものでした。
時代は下り、明治となって小学校が設置されてからも、変体かなは、文学や読み方の教科書はもちろん、『軍人勅諭』といったものに至るまで、変体かなは多く用いられていました。
明治33年以降の変体かな
前述のように、明治33(1900)年、政府は「小学校令施行規則」を発令、これによって、小学校では一つの音には一つのかなのみを教えることが決められました。
とはいえ、書道では変体かなは綴られましたし、文学作品にも一部使われ、また、戸籍上も認められていたのです。
第二次大戦後の昭和23(1948)年、戸籍法が改正されました。
これにより、戸籍上の名前においてはカタカナと変体かなを除くひらがなだけが認められることとなったのです。
昭和23年以前に生まれた方々は、もちろんいまもご存命ですから、家系のなかで母や祖母の代にも変体かなを使った名前をお持ちの方がいらっしゃることでしょう。
現代の変体かな
学校教育の現場や戸籍からは退くこととなった変体かなですが、その美しさにおいては日本の誇る文化の一つであることに変わりありません。
学術研究の世界の古文書解読では、変体かなの解読は大きな鍵となっています。
専門の研究者のみならず、アマチュアの愛好家も多く、2016年からは「古文書検定試験」も実施されているそうです。
このサイトの変体かなについてのページには「古文書学習の手始めはまず変体仮名の征服から」とあります。
「くずし字の字形を何度も書いてマスターしましょう。『書ければ読める』はずです」とか。
しかし、同じページの表を見るように、一つの音に対してもっとも少なくて2種類、多いもので10種類もの字形があるのが「変体かな」。
「征服」は一筋縄ではいかないでしょう。
「書ければ読める」を信じて、トライしてみますか。
http://komonjyo-kaidoku.jp/解読基礎知識/変体仮名/
かな書道の気品ある美しさ
書道では漢字に劣らぬ人気のあるかな文字。
細筆で流麗に書かれるかな文字は令和の時代にも人々を惹きつけてやみません。
書道でいう「かな」は単にひらがなだけを指す言葉ではなく、かなの起源となった「万葉仮名」や、万葉仮名を崩して簡潔に書いた「草仮名」も含まれます。
さらに漢字とかなが混ざった書も「調和体」と呼ばれて、かな書道のカテゴリーに入るそうです。
また、かなを中心に60年以上制作を続けられている眞殿イツ子さんによれば、音に充てる漢字(の草書)の選択にはかなり自由な幅があり、言葉に対する自分自身のイメージで選んで書かれているとか。
かな書道は、万葉仮名から連綿と続くかなの歴史を踏まえるだけでなく、現代を生きる作家本人の創造力をも映しだす芸術であることが理解できました。
眞殿イツ子さんによる習作「満許度(まこと)」