2021.07.21
大ヒット海外ドラマ「ルーツ」のルーツはどこにある?
1970年代に大ヒットしたドラマ「ルーツ」をご記憶の方は多いと思います。
今回は「ルーツ」について見ていきましょう。
「根」なのに「根」の意味では遣わない「ルーツ」
「ルーツ」と聞いて、あなたが最初に思い浮かべることがらはなんでしょうか。
「ルーツ(roots)」は「根」という意味を持つ英単語「root」の複数形です。
しかし、わたしたちは、植物の根のことをわざわざ「ルーツ」とはいいかえません。
「根」は「根」、それでは「ルーツ」はどんな意味で遣っているのでしょうか。
もうおわかりですよね。
わたしたちは「ルーツ」という言葉を「自分の祖先や出自」と解釈しています。
だから「ルーツを辿る」と聞けば「自分の家系を遡って出自を調べる」の意味と理解するわけです。
本ブログでも家系図作成にあたって、先祖の戸籍などを遡るときに「ルーツを辿る」という表現を使っています。
しかし、そもそも、なぜ「根」という意味の言葉がそのような意味を持つに至ったのでしょうか。
この質問に「たしかそれはね…」と答えられる人があなたの周りにいたら、おそらくその人は50代以上ですね。
1976年にアメリカで出版された小説『ルーツ』とそのテレビドラマ化
1976年、アフリカ系アメリカ人の作家アーサー・ヘイリーが、自分自身の一族の来歴をもとに12年の歳月をかけて書き上げた小説『ルーツ』を発表しました。
彼の6代前の先祖クンタ・キンテが、アフリカのガンビアで1767年に奴隷狩りに捕らえられアメリカ合衆国に奴隷として売られてからの数代に渡る物語で、またたく間に全米ベストセラーになりました。
優れたノンフィクションに与えられるピューリッツァー賞とスピンガーン賞を受けたのち、1977年にはテレビドラマ化。
全米ネット局ABCで放送さえると全米平均視聴率は44.9%(エーシーニールセン調べ)を記録しました。
なんと1億3,000万人が見たという計算になるそうです。
日本でも半年遅れで放送されて大ヒット
日本ではアメリカに遅れること半年で放送され、大ヒット。
日曜日から8夜連続ゴールデンタイムでの放送という異例のスタイルで、関東地区の平均視聴率は23.4%(ビデオリサーチ調べ)、最終回は28.6%をマークしたそうです。
スポンサーにはライバル同士の自動車会社二社が名前を連ねるなど、注目度の高さが伺えます。
1977年といえば、まだビデオ録画は一般に普及しておらず、放送中の平日は『ルーツ』を見逃すまいと定時に退社する勤め人が増えたという逸話も残っています。
そこまで真剣に見ている大人たちの横で、なんだかすごいドラマらしい、とつられて見入ったこどもたちも少なくなかったはず。
日本中ににわかに『ルーツ』ブームが巻き起こり「クンタ・キンテ」の名前を知らない人はいないほどでした。
つまり、このブームこそが「ルーツ」という言葉を「先祖」や「一族」の意味で一般化したというわけです。
そしてドラマの強い印象によって「ルーツ」一語で「一族の物語」までを連想させるようになっていました。
こうして小説やドラマの『ルーツ』を知らない世代にまで「ルーツ」という言葉は受け継がれていったのです。
コーヒー飲料に「ルーツ」というロングセラーがあったのも、日本人にこの言葉が浸透していたからではないでしょうか。
2016年、リメイクされた『ルーツ』
アメリカ本国でも人々は『ルーツ』を忘れていませんでした。
2016年、小説の出版から40年を記念してテレビドラマがリメイク。
クンタ・キンテ役にテレビシリーズなどで活躍するマラカイ・カービー、作家アレックス・ヘイリー役を『マトリックス』などに出演したローレンス・フィッシュバーンが演じ、他にもフォレスト・ウィテカーなど実力派俳優を揃えての制作でした。
日本でもCSのヒストリーチャンネルで4夜連続で放送されました。
「ルーツ」に通じるテーマの作品
『ルーツ』で明らかにされたアメリカの奴隷制の歴史は、以降の映像作品にも繰り返し取り上げられてきました。
近年では『それでも夜は明ける』(2013年アメリカ)が第86回アカデミー賞の作品賞をはじめとして数々の映画賞を受賞。
また昨2020年には、奴隷解放運動に命を懸けた黒人女性ハリエット・タプマンの伝記映画『ハリエット』が公開されたのが記憶に新しいところです。
奴隷貿易にはアメリカだけではなく、ヨーロッパのいくつかの国も積極的に関わっていましたが、当時のイギリスを描くのが『アメイジング・グレイス』(2006年イギリス・アメリカ合作)です。
名曲の誕生と奴隷制の廃止に尽力した政治家ウィリアム・ウィルバーフォースが描かれています。
趣の変わったところでは『42〜世界を変えた男』(2013年アメリカ)という、アフリカ系アメリカ人初メジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンの伝記映画があります。
1947年、ジャッキー・ロビンソンは背番号42をつけてメジャーリーグのグラウンドに立ちましたが、それは『ルーツ』のクンタ・キンテがアメリカに連れてこられてから180年後のことでした。
アメリカの人種問題は、日本人のわたしたちには実感しにくいと思います。
「ルーツ」という言葉を自分のものとして遣うとき、まさにその言葉の「ルーツ」に思いを馳せてみませんか?
民族を超えて伝わってくるものがあるのではないでしょうか。