2021.11.07
日本列島の名字の分布を見てみよう
日本の名字分布を見てみよう
名字は英語で「family name」。
まさに「家」の「名前」です。
家系図制作においても、ルーツを辿ることはすなわち名字を辿ること。
わたしたちはおのおの自分の名字に愛着やときには反発も含め、特別な感情を抱いています。
女性が結婚で改姓することが多い日本の法制の今後は興味深いところですが、これもまた、わたしたちが名字を重んじていることの表れの一つではないでしょうか。
家族の一員であること、家系の一部であること、日本人であること、なにより自分自身であること。
アイデンティティの拠り所である名字について、今回は、縦に長い日本列島で名字がどのように分布しているかについて見ていきましょう。
日本の名字ベスト10
まず、2021年3月時点での日本の名字のベスト10はこのようになっています。
さすがベスト10、どの名字にも思い当たる人がいませんか。
「参考資料 名字由来net」https://myoji-yurai.net/prefectureRanking.htm
東日本と西日本、それぞれの傾向
では、これら上位の名字は全国にどのように分布しているのでしょう。
おおまかにいうと、東日本には「佐藤・鈴木」が多く、西日本には「田中・山本」が多くなっているようです。
2018年に明治安田生命が保険契約者約655万人を対象に行なった調査によれば、「佐藤」が北海道・青森県を除く東北、「鈴木」が群馬県を除いた関東地方の各県・愛知県でトップになっています。
「田中」は福井県のほか近畿地方の滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県、鳥取県・島根県、九州地方の佐賀県・福岡県・熊本県と西日本の10の自治体でトップ。
「山本」は北陸地方の富山県・石川県、近畿地方の和歌山県・奈良県、中国・四国地方の岡山県・広島県・山口県・高知県・愛媛県・香川県と、10自治体でトップになっています。
このような東日本と西日本の勢力分布はなぜ生まれたのでしょうか。
「佐藤」と「鈴木」のルーツ
全国でもっとも多い名字である「佐藤」は、平安時代に栄華を極めた藤原氏の末裔とされています。
「佐」は「すけ」と読み、朝廷の職位の2番目を指していました。
代々「佐」を務めた藤原氏が「佐藤」を名乗り、下級官僚クラスの藤原氏が続々と「佐藤」となって東日本に移り住むようになったのだそうです。
次に多い名字の「鈴木」のルーツは紀伊半島の熊野にあります。
この地域では刈り取った後の稲藁を積み重ねたものを「スズキ」を呼んでいました。
「鈴木」は稲作と関係の深い名字だったのです。
やがて「鈴木」は熊野信仰と結びついて、山伏とともに全国に広がりました。
なかでももっとも栄えたのが三河の「鈴木」一族だったそうです。
三河で生まれた徳川家康が天下を取って、江戸に本拠を構えると、家臣の「鈴木」一族も大挙してこれに従い、東海から関東へと多く移り住んだというわけです。
「佐藤」と「鈴木」は西日本で生まれた名字ながら、それぞれに理由があって、東日本に移動し、栄えた名字なのでした。
西日本に多い「田中」と「山本」の起源は
大名の規模も武家の給料も「石(こく)」という米の量で表されていたことからもわかるように、かつての日本の経済は米を基準に成り立っていました。
水田は富の象徴だったのです。
そのため「田」のつく名字が増えましたが、家を中心に水田を整備するのが一般的だったため、「田中」がもっとも広がったと考えられています。
そして西日本は東日本より温暖で稲作が盛んだったので、「田中」という名字がさらに多くなったようです。
「山本」はもともと「山の麓(ふもと)」という意味で、古代には平野の真ん中に住むより山のふもとに住むほうが一般的でした。
谷合の農村地帯では、川に近い部分が水田として整備され、山のふもとに家を建てることが多かったのです。
このような日本の原風景から「山本」という名字が生まれました。
そして「田中」同様、西日本では東日本より稲作が盛んだったために「山本」の名字も西日本で多くなったというわけです。
名字における東日本と西日本の境界線は
では、名字の上での東日本と西日本の境界線はどこにあるのでしょうか。
結論からいうと、日本海側では新潟県と富山県の間、太平洋側では岐阜県の関ヶ原のあたりということになるようです。
前掲の明治安田生命の2018年の調査によれば、新潟県の名字ランキング1位は「佐藤」、5位が「鈴木」。
これは東日本型になります。
ところが新潟県の隣の富山県では、1位が「山本」、4位が「田中」です。
これは西日本型。
つまり、新潟県と富山県の間に境界線があるというわけです。
太平洋側を見てみましょう。
愛知県では1位が「鈴木」。
東日本型が優勢であることを示しています。
岐阜県では1位が「加藤」、2位が「伊藤」。
三重県になると1位が「伊藤」。
岐阜県も三重県も東西どちらにも明確には色分けできません。
さらに西にいくと、滋賀県・京都府では1位が「田中」、2位が「山本」。
和歌山県・奈良県では1位が「山本」、2位が「田中」と逆転しますが、どちらも西日本型になっています。
以上のことから太平洋側では関ヶ原のあたりに境界線があるといって差し支えないでしょう。
立命館大学が作成した日本の名字マップ
自分の名字はランキングに入っていないけれど、どのあたりに多いものなのだろう、という疑問を持たれた方にはこちらの「日本の名字マップ」をお薦めします。
https://www.dmuchgis.com/myojimap/
これは立命館大学が電話帳や住宅地図の表札名4000万件のデータを都道府県ごとに集計し、地図化したものです。
調べたい名字を入力するだけで、絶対数と特化係数がわかります。
特化係数とは、その名字が各都道府県でどの程度特化しているかを示したもので、最大値が100であれば、全国的に均等に分布していることになります。
あなたの名字はどの都道府県にもっとも多かったでしょうか。
自分の名字だけでなく、友達や知り合いの名字など、次々に検索したくなること請け合いです。