2022.04.11
過去帳にも残るルーツの記録
過去帳にも残るルーツの記録
家系図作成のための書籍やHPを見ると、
「戸籍だけで辿れない部分は『過去帳』を見るとよい」
というような記述によく出会います。
「過去帳」ってなんでしょう。
文字から想像すると「過去」の「帳面」。
家系の過去について記してあるノートのようなものでしょうか。
それはどこにあるのですか。
どこを探せば「過去帳」というものが見つかるのでしょうか。
人に聞くと、
どうやら「仏壇の引き出し」に入っているらしい。
仏壇のない家には仏壇の引き出しもありません。
その家には過去帳はない、ということなのでしょうか。
家系図作成に役立つものというけれど
過去帳とはどのようなものなのか、調べてみました。
まずはその歴史から。
過去帳の歴史
信教の自由が憲法で定められている現代からは
想像するのが難しいことですが、
かつての日本では各家は必ず、
菩提寺(先祖代々のお墓があり、仏事などでお世話になる寺院)
を持ち、その檀家となることが義務づけられていました。
江戸時代には、この考え方が精査され、
より効率的に管理がなされるようになりました。
このとき菩提寺が檀家の管理の原簿とするべくできあがったのが
「過去帳」なのです。
菩提寺にはすべての檀家の過去帳が作成されて保管され、
檀家も個別のその家の過去帳を持っていました。
古いものだと1600年代から引き継がれているそうです。
つまり、過去帳は、
菩提寺が管理した檀家の個人情報の記録であり、
戸籍のまだない時代にはそれに代わるものとして
機能していました。
各檀家(在家ともいう)が保管するその家の個別の過去帳には、
その家の、
- 個人の名前
- 戒名
- 死亡年月日
- 享年
などが記されており、
家系の歴史を知ることのできる記録になっています。
家系図作成の際、
役所から取り寄せることのできる戸籍は、
明治19年以降に作られたものです。
幕末に存命だった先祖までは知ることができますが、
それ以前の先祖についてはわかりません。
しかし過去帳ならば、江戸時代の初めまで遡れる可能性があるわけです。
がぜん興味が湧いてきませんか。
過去帳がない、紛失した、消失した場合
とはいえ、最初にも書いたように、
仏壇のない家で過去帳のありかは見つけにくいもの。
親御さんに聞いても「見たことがない」といわれ、
話を聞けるおじいちゃんおばあちゃんはもういない。
でも、菩提寺はわかるから聞いてみたらどうだろう。
お寺には檀家の過去帳があるというのだから、きっとわかるはず。
お寺に過去帳のコピーをお願いすることはできるのでしょうか。
ところがこれはお寺側にとって、極めて手間と時間のかかる依頼です。
なぜならば、
お寺の過去帳には亡くなった方々の記録が
「各家庭ごと」に記されてのではなく、
「亡くなった日にち順」に記載されているからです。
檀家側に位牌など亡くなった日にちがわかるものがないと
難しい作業でもあります。
位牌がなければ戸籍をひもとくしかなく、
そうなるとやはり幕末以前に亡くなった祖先の過去帳の検索は困難ということになります。
過去帳探しは親族の記憶を総動員するほかないのかも知れません。
仏壇の引き出しはすでになくても、
古い箪笥の引き出しの奥か、
おじいさんの文机の引き出しか、
床の間の横の戸棚かどこかに。。。
キリスト教や神道にも過去帳はあるの
仏教以外の宗教、
たとえばキリスト教や神道にも過去帳の類があるのか
りたくなりました。
キリスト教では「信徒籍台帳(信徒記録表)」があるそうです。
教会が制作する「この人はこの教会に属しています」と記す住民票のようなものです。
キリスト教には大きく分けて
「カトリック」「プロテスタント」「聖公会」
などの宗派がありますが、
「カトリック」はとくに伝統を重んじるため、
信仰する場合は必ずどこかの教会に属していなければなりません。
日本のかつての檀家制度にも通じるところがあるともいえるでしょう。
神道にも過去帳に当たるものがあり「霊簿(りょうぼ)」
と呼ぶそうです。
これから過去帳を作るなら
家には過去帳は見当たらないのであっても、
それはまさしく「過去」のこと。
ここから家系の過去帳を作っていくことは、
わたしたちの世代にもできます。
まずは過去帳の形を選ぶところから。
過去帳には二つのタイプがあります。
記帳面が蛇腹に折り畳まれた「折本」のタイプと、
縦に閉じられた「冊子」のタイプです。
経本のような形と、
右横が意図で綴じられたいわゆる「和綴」の本の形ですね。
表紙は、
- 色柄の多彩な布地、
- 落ち着いた印象の木材、
- 豪華な蒔絵が施されたもの、
などさまざまです。
中の紙には和紙と用紙がありますが、
保存の点では和紙が優れているでしょう。
価格は数千円から二万円以上するものまで。
子孫の代まで使うことを考えれば、
材質や品質にはこだわりたいところです。
記入するのは、菩提寺の住職とは限りません。
故人と親しかった人や親族が記入しても構わないそうです。
筆記具はできれば筆と墨。
それも墨汁ではなく硯ですった墨のほうが退色しにくいとか。
過去帳を作成しておけば、
故人の供養の際に役立つばかりではなく、
子孫に自身のルーツを知るすべを残すことにもなります。
その家の代々の血のつながりや
親族関係を全体的に見ることのできる家系図と比べると、
過去帳には宗教的意味合いがあり、
故人の情報に特化されたものとなります。
しかしどちらも、
ルーツの記録という意味で
子孫にとって興味深い遺産となるのではないでしょうか。