2021.06.23
遺伝子で遡るあなたのルーツ。あなたの先祖は源氏?それとも平家?
自分の先祖に関心のない人はいません。
日本には戸籍制度があって、かなりの部分まで調査をすることができます。
しかし、遺伝子はもっと多くのことを語ってくれるのです。
戸籍を調べてわかるのは最大62人の先祖
戸籍を遡って家系図を作成するとき、日本の戸籍制度の場合、特定が可能な先祖は現在50歳前後の人から見ると、だいたい高祖父母の父母までとなります。
閲覧できるもっとも古い戸籍が明治19年式のもので、そこに名前が記されているもっとも上の世代が高祖父母の父母なのです。
その人たち全員の名前が特定できたとするとその数は32人。
高祖父母は16人、曽祖父母は8人、祖父母は4人、父母は2人ですから、家系図にはもっとも多くて62人の先祖の名前が載せられるわけです。
実際には全員の方のお名前や生年月日、本籍地まで辿りきることは難しいのですが、現存して閲覧できる戸籍でそこまでの調査が可能であることは覚えておいていただけたらと思います。
祖先の数は倍倍ゲームで増える
戸籍には残っていなくても、高祖父母の父母より上の世代の先祖が存在していたことは間違いありません。
星野源のヒット曲『恋』が歌っているように「この世にいる誰も二人から」なのですから。
高祖父の父母、その父母、そのまた父母、と遡っていくたびに、世代の人数は倍に増えていきます。
「倍倍ゲーム」の名の通り、その増え方は著しいものです。
10代前の祖先は1,024人、15代前は32,762人、20代前は1,048,576人。
仮に1世代を25年と考えるといまから500年前、室町時代には100万人以上の祖先が存在していたということになります。
室町時代の日本の人口はざっと1,500万人といわれていますから、その約14分の1が祖先…なかなか想像が追いつきません。
現在仙台市に住んでいる人々と同じくらいの数の祖先が、室町時代には生きていたなんて。
遺伝子の観点からルーツを遡ると
わたしたちのルーツを辿る手がかりには、戸籍の他に「遺伝子」があります。
血縁よりもっと深く、細胞の内側で螺旋を描く塩基の組み合わせを鍵とするわけです。
そして、遺伝子の観点から見ると、「わたしの祖先は源氏よ」「ぼくの祖先は平家だ」ではなく「わたしの祖先は源氏でも平家でもある」となるそうなのです。
(ここからは分子古生物学者・更科功さんの説を元に記述します)
わたしたちは細胞のなかに46本の染色体を持っています。
精子や卵子を作るときに、2つの染色体が並んで遺伝子の組み換えが起きるのですが、わかりやすくするために、まずその組み換えが起こらないものとして考えましょう。
すると、わたしたちは、父と母から23本ずつの染色体を受け継いで生まれてきており、4人の祖父母からは11本くらいずつ受け継いでいることになります。
さらに遡ると8人の曽祖父母からは6本くらいずつ、16人の高祖父母からは3本くらいずつ、32人高祖父母の父母からは1本くらいずつ受け継いて生まれてきました。
そして64人の高祖父母の祖父母からは受け継いだり受け継がなかったりしています。
つまり、高祖父母の祖父母まで遡ると、わたしたちは「64-46=18」すなわち18人の高祖父母の祖父母からは遺伝子を受け継ぐことはできない、ということになるのです。
当然のことながら、受け継ぐことのできない先祖の数は代を遡るごとに増えていきます。
以上は遺伝子の組み換えが怒らないという仮定の話。
実際は、わたしたちの遺伝子は組み換えられています。
女性が卵巣のなかで卵子を作るときには平均して45回の組み換えが起こるそうです。
いっぽう、男性が精巣のなかで精子を作るときには平均して26回の組み換えが起こっています。
1世代で合わせて平均71回の組み換えが起こっているというわけです。
わたしたちは46本の染色体を持っていますが、遺伝上は組み換えの回数だけ染色体が増えたことに相当します。
1本の染色体に母親からきた遺伝子と父親からきた遺伝子が混在するようになったからです。
父母は2人ですが、遺伝上は染色体の数だけ117人の「組み換えられた父母」から117のピースを受け継いでわたしたちは生まれます。
そのピースの数は1世代遡るごとに71個ずつ増えていきます。
つまり、遺伝子を受け継げる人の数が計算上で1世代ごとに71人ずつ増えていくということです。
父母の代では117人、祖父母の代では188人、曽祖父母の世代では269人、高祖父母の世代では330人となります。
わたしたちは直接的に、父や母や祖父母に似ているわけではなく、実際の数よりずっと多くの「組み換えられた先祖たち」の遺伝子を受け継いだ結果「みんなに似ている」のです。
遺伝子で世代をもっと遡ると
世代をさらに遡っていきましょう。
9代前の先祖の実際の人数は512人で遺伝子を受け継げる人数は685人。
ここまでは実際の人数を遺伝上の受け継げる人数が上回っていますが、10代前でこれが逆転します。
10代前の先祖は512人の倍で1024人、それに対して遺伝子を受け継げる人数は685人に71人を足して756人です。
以下世代が上がるごとに差は大きく開いていきます。
さきほど遡ったように20代前の先祖は1,0148,576人ですが、遺伝子を受け継げる人数は1,466人に過ぎません。
20代前のおじいさんおばあさんのなかで、わたしたちに遺伝子を伝えられるのはわずか0.1%。
源氏と平家がせめぎあっていた時代までさらに300年を遡るなら、そのパーセンテージは限りなく0に近いということになります。
つまり、遺伝の見地からはたとえ先祖が源氏だろうと平家だろうと、わたしたちがその遺伝子を受け継いでいる可能性もまた、限りなく0に近いというわけです。
いいかえれば、わたしたちは源氏の子孫でもあり、同時に平家の子孫でもある。
なぜなら、その確率はどちらでも同じだけ極めて小さいから、なのです。
ファミリーヒストリーにおけるわたしたちの実感
遺伝子の見地からつきつめるとわたしたちの先祖はみな同じ、というところに行き着くようですが、ファミリーヒストリーを辿ろうとするわたしたちの実感はやはり異なっているのではないでしょうか。
戸籍を遡ることで知ることのできる先祖の先の先まで、わたしたちの血縁はつながっています。
そのうちの誰かが、こどもを生むことがなければ、わたしたちはいま存在していません。
その長い長い命のリレーに思いを馳せて…